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静岡地方裁判所 昭和34年(行)1号 判決

静岡県富士市富士岡四六五番地の五

原告

窪田運輸株式会社

(旧商号 岳南運送株式会社)

右代表者代表取締役

窪田利男

右訴訟代理人弁護士

池谷信一

右同

倉田雅年

静岡県富士宮市宮本町一四二三番地の一三

被告

富士税務署長

吉本修二

右指定代理人

斎藤健

右同

川島市二

右同

植田栄一

右同

中野長夫

右同

和田真

右同

藤原嘉民

右同

柿原増夫

右当事者間の法人税査定金額に対する更正決定取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、原告の請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

「(一) 昭和三二年一二月二五日附で被告が原告に対してなしたところの

1、(イ) 昭和二九年度分所得金額を金三九九、一〇〇円、法人税額を金一六七、六二〇円、重加算税額を金八三、五〇〇円とする更正決定

(ロ) 昭和三〇年度分所得金額を金五、四四二、九〇〇円、法人税額を金二、三一九、四四〇円、過少申告加算税額を金五六、一〇〇円、重加算税額を金五九八、五〇〇円とする更正決定

は、いずれも取消す。

2  昭和三一年度分所得金額を金一、五五二、八〇〇円、法人税額を金五九六、一二〇円、無申告加算税額金四三、八七〇円とする更正決定中、所得金額が金七〇三、七三六円、法人税額が金二八一、五二〇円過大であり、無申告税額金四三、八七〇円は不当につき右部分をいずれも取消す。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二、被告

主文同旨の判決。

第二、請求原因

一、原告は一般貨物自動車運送事業及びこれに附随する一切の事業を行うことを目的とし、昭和二八年一二月一六日資本金三〇〇で万円設立せられた株式会社である。

二、原告は昭和二九年度において欠損金二、二七二、二九六円を生じたのでその旨の確定申告をしたところ、被告は昭和三〇年中に一旦同年度の繰越欠損金一、七七二、九〇〇円と決定しながら昭和三二年一二月二五日

減価償却の償却超過額 金一、三八八、三三六円

仮払金 金 三〇二、五六一円

源泉徴収加算税 金 一六、四三九円

未払金過大 金一、一九〇、一三二円

以上合計金二、八九七、四六八円ありと認定し

これから税金引当金より支出した 金六、四八〇円

未納事業税 金二、一八〇円

合計金八、六三〇円

を差引いた残額金二、八八八、八三八円から原告の法人税確定申告書添付の決算書に原告が損失金としている金二、四八九、六九六円を控除した残額金三九九、一四二円の所得ありとして第一の一、(一)1(イ)記載の如き更正決定をした。

しかしながら右更正決定は次のとおり所得の認定を誤つている。すなわち、

(一)  当時原告会社の監査役であつた訴外白川菊蔵が代表取締役をしていた訴外白川組が訴外新東産業株式会社の所有名義をもつて買入れた貨物自動車「いすゞ」五十四年型一輛を原告会社が購入したものの如く認定し、その価格金一、二五一、二八〇円から滅価償却額を控除した残額金九八一、九四三円を前記減価償却の償却超過額金一、三八八、三三六円中に含ましめたが同認定は誤りである。

(二)  原告は設立当初訴外富士貨物自動車株式会社より貨物自動車一五輛を代金一二、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、その後これを毎月月賦弁済しているが、被告は右買入価格が過大であるとして未払金の内金一、一九〇、一三二円を否認して原告の所得ありとしたが、原告は真実右代価で買入れ、これを原告の申告どおり毎月分割払いしているのであつて、被告の右認定は誤りである。

三、原告は昭和三〇年度において欠損金一、二七六、二〇二円を生じたのでその旨の確定申告をしたところ、被告はこれに対し

損金に計算した法人税 金 三二、五〇〇円

同 県民税及び市町村税 金 三〇〇円

減価償却超過額 金六、四〇八、九三〇円

源泉徴収加算税 金 六、五三八円

地方税加算金 金 三、四八〇円

未払金過大 金三、〇七八、五五五円

売掛金計上洩れ 金 三八三、五七八円

以上合計金九、九一三、八八一円を否認して同金額の所得ありと認定し、

これから経費として滅価償却の償却超過額の当期認容額

金 三五二、三三六円

未納事業税 金 三九、九一〇円

償却超過繰入 金 四〇六、三九三円

未収入金 金 二七一、〇〇〇円

架空車輛 金 四四六、八七一円

借入金 金一、〇二九、一一八円

未払金残 金 五一七、八七二円

未払手形 金 七七五、六〇〇円

右合計 金三、八四〇、一〇〇円

を控除した残額金六、〇七三、七八一円から更に原告のなした法人税確定申告書添付の決算書に原告が損失金として掲示している金六三〇、八五九円を控除し、その残額金五、四四二、九二二円の所得ありとして第一の一(一)1(ロ)の如き更正決定をした。

しかしながら右更正決定は次のとおり所得の認定を誤つている。すなわち、

(一)(1)  当時原告会社の監査役であつた前記白川が代表取締役をしている訴外白川組が新東産業株式会社の名義をもつて買入れた貨物自動車(いすず五四年型)一輛を原告が購入したものの如く認定し、その価格金一、二五一、二八〇円から減価償却を差引いた残額金一〇〇、〇〇〇円

(2)  同白川組が富士製紙合板株式会社の名義をもつて買入れた貨物自動車(いすゞ五五年型)一輛を原告が購入したものの如く認定し、その価格金一、五一七、六八〇円

(3)  訴外中野長太郎が個人として訴外富士里和製紙株式会社名義をもつて買入れた貨物自動車(日野五〇年型)一輛を原告が購入したものの如く認定し、その価格金一、三七〇、〇〇〇円

(4)  原告の取締役であつた訴外由井定夫が個人として訴外富士共和製紙株会社名義をもつて買入れた貨物自動車(日野五四年型)一輛を原告が購入したものの如く認定し、その価格金二、一〇七、一九六円

以上合計金五、〇九四、八七六円を前項の減価償却の償却超過額金六、四〇八、九三〇円中に含ましめたが、右自動車四輛は前記訴外人の各所有であつて、原告の所有ではないから右被告の認定は誤りである。

(二)  また売掛金計上洩れ金三八三、五七八円は訴外由井定夫所有の貨物自動車関係であつて原告の所得とは関係のないものを原告のそれとして認定している。

四、原告は昭和三一年度において原告の所得は金八四九、〇六四円であつたので、その旨の確定申告をなし(帳簿関係焼失したため被告の申告期限延期の承諾を得て昭和三二年一二月二六日申告)これに対する法人税額は金三一四、六〇〇円となるところ被告は確たる根拠もなく、原告の右年度の所得を金一、五五二、八〇〇円ありとして第一の一(一)2の如き更正決定をした。

しかしながら、右更正決定はその基礎たる所得額の認定を誤つている。すなわち被告は原告が昭和三一年九月まで貨物自動車を二一輛、同年一〇月以降は一三輛を所有し、一輛につき一ケ年金一〇〇、〇〇〇円の利益があつたものと認定している(吉原市内のある会社における所得より推計)が、これは事実に反する。当時原告は同年九月まで一七輛、一〇月以降九輛を所有するのみで、その一輛当りの所得は一ケ年金六五、〇〇〇円に過ぎない。

従つて、被告の右更正決定は、同年度の所得金額について金七〇三、七三六円、法人税額につき金二八一、五二〇円過大であり、被告は前記の如く原告の事情を了承して申告延期を認めたのであるから無申告加算税を課するのも不当である。

五、以上の如く、被告が原告に対してなした前記昭和二九年度ないし三一年度の各更正決定はすべて事実に相違して原告の所得を過大に認定しているから原告は昭和三三年一月二四日富士宮税務署長に対し再調査請求をしたが、同年三月二〇日請求棄却の決定を受けたので、更に同月三一日に名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ同年一〇月一〇日に請求棄却の決定を受けたので、右各更正決定の取消を求めるため本訴に及ぶ次第である。

第三、請求原因に対する被告の認否

請求原因第一項は認める。同第二項ないし第四項中原告が昭和二九年度ないし三一年度の各所得につき原告主張のような確定申告をなしたこと、これに対し被告が原告主張のような所得額の更正決定をしたことは認めるがその余は争う。第五項中再調査および審査請求に関する部分は認める。

第四、被告の主張

原告の所得金額は次のとおりであつて、本件各更正決定額を上廻つているから、本件更正決定処分には何らの違法はない。

一、昭和二九年度所得

(一)  原告のなした法人税確定申告書添付の決算書に原告が損失金として掲示している金二、四八九、六九六円に対し、法人税法による所得の計算上利益金額に加算記載すべきものは左のとおりであつて、その合計額は金五、五五一、三一二円である。

(1) 減価償却超過額金三、一三八、一八六円

(A) (イ)運送収入もれより取得した貨物自動車二輛金三、六四六、二九六円

(ロ)右貨物自動車に対し法人税法第九条の八の規定により計算した減価償却認容額金九一四、四五七円

(ハ)差引貨物自動車計上もれによる減価償却超過額金二、七三一、八三九円

(B) 資本的支出による減価償却超過額金四〇六、三四七円

右(ハ)及び(B)の合計金三、一三八、一八六円

(2) 仮払金三一二、五五〇円

損金計上法人税金一七四、四七〇円同県民税及び市民税金二五、八九一円、源泉徴収加算税金一六、四三九円、同中間事業年度分事業税金九五、七五〇円

合計金三一二、五五〇円

右は法人税法第九条の規定による損金不算入額

(3) 未収入金計上もれ金五八八、二八七円

富士里和製紙株式会社金一七三、二〇一円、富士共和製紙株式会社金二九八、五一一円、丸金製紙株式会社金一一六、五七五円

合計金五八八、二八七円

(4) 預金計上もれ金九九三、六六八円

但し由井定夫ないしは白川菊蔵名義の駿河銀行、静岡銀行、富士信用金庫各鷹岡支店のもの

(5) 受取手形計上もれ金五一八、六二一円

富士製紙合板株式会社が昭和三〇年三月三一日振出しにかかる支払期日昭和三〇年六月二〇日の約束手形金七三一、二七六円があるが、このうち原告の決算書には金二一二、六五五円が計上されたに過ぎないから差引金五一八、六二一円

以上(1)ないし(5)の合計金五、五五一、三一二円である。

(二)  右所得金額より減算すべきもの合計金四、〇二二、九八二円

(1) 未納事業税金二、一八〇円

(2) 買掛金計上もれ金一、一三一、一〇六円

前記(一)(1)(A)(イ)記載の貨物自動車金三、六四六、二九六円のうち金一、一三一、一〇六円は昭和二九年度未払金であるから認容する。

(3) 借入金計上もれ金四〇〇、〇〇〇円

株式会社富士信用金庫鷹岡支店より由井定夫名義の借入金で計上もれのもの

(4) 原告の計上した当期損失金 金二、四八九、六九六円

以上(一)、(二)の差引所得金額金一、五二八、三三〇円

二、昭和三〇年度所得

(一)  原告のなした法人税確定申告書添付の決算書に原告が損失金として掲示した金六三〇、八五九円に対し、法人税法による所得の計算上利益金額に加算記載すべきものは左のとおりであつて、その合計額は金一三、二二一、三〇二円である。

(1) 滅価償却超過額金二、三五五、六七二円(但し(ハ)の金額)

(イ) 運送収入もれより取得した貨物自動車二輛金三、〇六一、二八〇円

(ロ) 右貨物自動車に対し法人税法第九条の八の規定により計算した減価償却認容額金七〇五、六〇八円

(ハ) 差引貨物自動車計上もれによる減価償却超過額金二、三五五、六七二円

(2) 仮払金四二、八一八円

損金計上法人税金三二、五〇〇円、同県市民税金三〇〇円、同源泉徴収加算税金六、五三八円、地方税延滞加算金三、四八〇円

右合計金四二、八一八円は法人税法第九条の規定による損金不算入額

(3) 未収入金計上もれ金三四三、四〇〇円

富士里和製紙株式会社 金 五五、〇八〇円

三弘紙業株式会社 金 一六九、二三七円

丸金製紙株式会社 金 一一九、〇八三円

右合計 金 三四三、四〇〇円

(4) 預金計上もれ金八九九、六二九円

但し由井定夫ないし白川菊蔵名義の駿河銀行、静岡銀行、富士信用金庫各鷹岡支店のもの

(5) 受取手形計上もれ金一、三〇五、六九二円

〈省略〉

右のうち原告の決算書に計上されている金額金六九二、八二七円を差引いた金一、三〇五、六九二円

(6) 減価償却不当金一四八、四七八円

原告は貨物自動車(民生デイゼル製作にかかるもの)金四〇二、三八二円に対し右金額を減価償却しているが右車輛は実在しないのでこの償却は不当である。

(7) 買掛金過大計上金六、九九四、五〇八円(但し(イ)(ロ)の差額)

(イ) 原告の計上した車輛等買掛 金九、二六一、七六八円

(ロ) 調査による実在の買掛金 金二、二六七、二六〇円

(内訳)

三菱ふそう株式会社 金一、二二六、〇三四円

静岡日産自動車販売株式会社 金 一九、八七九円

その他 金一、〇二一、三四七円

右(イ)、(ロ)の差額 金六、九九四、五〇八円

(8) 前期減算した買掛金繰入れ額 金一、一三一、一〇六円

右は昭和二九年度所得一、(二)(2)により減算した買減金計上もれは当期支払済消滅につき加算する。

以上(1)ないし(8)の合計金一三、二二一、三〇二円

(二)  右所得金額より減算すべきもの合計金五、三八二、四一四円

(1) 減価償却超過額の当期認容額金一、四一四、三九五円

(イ) 昭和二九年度で加算した減価償却超過額のうち原告が当期雑収入に計上繰入れした額金四〇六、三四七円

(ロ) 昭和二九年度で加算した減価償却超過額金三、一三八、一八六円のうち金二、七三一、八三九円に対応する当期減価償却認容額金一、〇〇八、〇四八円

右合計金一、四一四、三九五円

(2) 未納事業税金三九、九一〇円

(3) 借入金計上もれ金四五〇、〇〇〇円

(イ) 富士信用金庫鷹岡支店より由井定夫名義の借入金昭和三一年三月三一日残高金八五〇、〇〇〇円

(ロ) 右同昭和三〇年三月三一日残高金四〇〇、〇〇〇円

右(イ)、(ロ)の差引金四五〇、〇〇〇円が計上もれ。

(4) 買掛金計上もれ金一、二九三、四七一円

前記二、(一)(1)(イ)記載の貨物自動車二輛金三、〇六一、二八〇円のうち金一、二九三、四七一円は昭和三〇年度の未払金である。

(5) 貨物自動車架空計上金四四六、八七一円

貨物自動車(民生デイゼル製作にかかるもの)金二五三、九〇四円、同(トヨタ自動車製作にかかるもの)金一九二、九六七円はいずれも架空計上である。

(6) 昭和二九年度で加算したもののうち当期繰入れによる減算金一、一〇六、九〇八円

(イ) 未収入金計上もれ 金 五八八、二八七円

(ロ) 受取手形計上もれ 金 五一八、六二一円

右合計 金 一、一〇六、九〇八円

(7) 原告の計上した当期損失金 金六三〇、八五九円

以上(一)(二)の差引所得金額金七、八三八、八八八円

三、昭和三一年度所得

原告は当期の法人税確定申告を昭和三二年一二月一七日提出したが、その決算書作成にあたりその基礎たる帳簿書類を同年四月一日の火災により焼失したため、当期事業年度直後の昭和三二年四月及び五月分の収入、支出を基礎とし、これを年換算したものによつて右決算書を作成しているが、このように翌事業年度分を基礎として前年度の所得を推計する方法は、一般に当該企業の営業規模や社会の経済事情等すべての状況に異動のない場合に始めて適正な結論を得られるものであるところ、原告会社は昭和三一年一〇月に由井、白川両営業所を分離して、同年一一月以降営業を縮少したから、原告の採つた推計計算によると営業縮少後の昭和三二年四月及び五月の収支をもつて、当期昭和三一年度の全期間についての収入、支出の計算基礎としたことになり、この点において原告の右決算書は実情に合わないこと明らかである。

そこで、被告は止むを得ず原告と同業種、同規模程度の法人である、

吉原市依田橋吉原運送株式会社、富士市水戸島富士トラツク株式会社、同 市本市場朝日運送株式会社の三会社の所得を基準として原告の所得を推計することにした。

しかして、調査の結果

(イ)  右三社平均の一車輛当り運送収入金額金二、五五七、四九六円

(ロ)  右収入金額に対する営業利益率 二三・八三%

(ハ)  原告の当期車輛所有平均台数 一六台

であることが判明し、これに基づいて計算した原告の当期所得金額は金五、五三八、九八八円である。

なお、吉原運送株式会社他二社の基準会社の所有車輛は五三年型以前の車輛が四五%も含まれており、原告会社とほぼ同率の古車による営業であり、原告会社所有車輛の一台当り平均積載量を同主張の別表(三)により計算すると次の如く六・五七屯である。

期首 台数一七台、合計積載量一〇二・五屯 平均六・〇三屯

期末 〃 九台、〃 六四屯 〃 七・一一屯

期首、期末平均六・五七屯

他方、前記基準法人三社の各平均積載量は別表(四)ないし(六)のとおりであり、三社の平均積載量は六・二八屯であつて、むしろ原告会社より少ない。

しかも、原告会社は右基準会社と同様近在の製紙会社等固定した得意先を有し、主として東京、大阪、名古屋などへその製品を輸送することをもつてその営業主体としているから、名自の本社所在地如何によつて営業成績が左右されることはない。

第五、被告の主張に対する原告の認否および反論

一、昭和二九年度所得(一)のうち(1)の(B)、(2)及び(5)のうち原告の決算書に掲示した金額の点を認め、その余はいずれも否認する。

同(二)のうち、(1)は認め、その余はいずれも否認する。

右(一)の(4)の預金はいずれも名義人である由井定夫、白川菊蔵個人の預金であり、同(二)(3)借入金も由井定夫個人の借入金である。

二、昭和三〇年度所得(一)のうち(2)、(5)のうち原告の決算書に計上されている金額、(6)及び(7)(イ)の原告の計上した車輛等買掛金額の点を認め、その余はいずれも否認する。

同(二)のうち(1)(イ)、(2)、(5)は認め、その余はいずれも否認する。

右(一)の(4)の預金、(二)の(3)の借入金はいずれも名義人である由井定夫又は白川菊蔵個人のものであつて、原告とは関係がない。

三、昭和三一年度の所得につき

(イ)  被告が原告の所得推計の基礎にした吉原運送他二会社の車輛一台当り平均収入金額は恐らく七屯軍による収益と思われるが、原告が昭和三一年度に所有していた車輛中には四屯・五屯車が計四台も含まれており、且つ右基準会社はいずれも吉原市又は富士市所在の会社であるが、原告は鷹岡町という小さな町に在り、右三会社の平均収益をもつて原告の収入を推計するのは不当である。

(ロ)  被告主張の営業利益率二三・一九%は新車の場合にのみ該当し、原告の如く約半数が古車(四九・五二・五三年型)である場合には右営業利益率による収益計算は実際に適合しない。

(ハ)  原告の各年度における所有車輛数は別表(一)ないし(三)のとおりであつて、昭和三一年度は被告主張の如く一六台ではない。

第六、立証

一、原告

(1)  書証 甲第一ないし第四号証、第四号証の二ないし一〇、第五号証の一ないし一〇、第六号証の一ないし一一、第七号証の一ないし一一、第八号証の一ないし五、を提出。

(2)  人証 証人小股正己、同松月誠一郎、同井出不二男、同白川康雄、同藤原豊、同佐野輝雄、同井出淳、同由井忠市、同由井健史、同岩崎武久の各証言を援用。

(3)  乙号証の成立に対する認否

乙第一、第二号証、第四号証、第六号証の一ないし三、第七号証、第九号証の一、二、第一〇第一一号証、第一二号証の一、二、第一三号証、第三七号証、第四七号証、第五九号証の一、二、第六四号証の一ないし四、第六五号証の一ないし五、第六六号証の一ないし五、第六七、第六八号証の成立は認める。乙第五三号証の一の成立は郵便官署作成部分は認めその余は不知。乙第五号証の一ないし六、第八号証の一ないし六の各成立は否認。その余の乙号各証(枝番とも)の成立は不知。

二、被告

(1)  書証 乙第一ないし第四号証、第五号証の一ないし六、第六号証の一ないし三、第七号証、第八号証の一ないし六、第九号証の一、二、第一〇、第一一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第一六号証、第一七第証の一ないし七、第一八号証の一、二、第一九ないし第三一号証、第三二号証の一ないし三、第三三ないし第三七号証、第三八号証の一ないし四、第三九号証の一ないし四、第四〇号証の一ないし四、第四一号証の一、二、第四二号証の一、二、第四三号証の一、二、第四四ないし第四七号証、第四八号証の一ないし八、第四九号証の一ないし三、第五〇号証の一ないし六、第五一号証の一、二、第五二号証の一ないし五、第五三号証の一ないし五、第五四号証の一ないし四、第五五号証の一ないし八、第五六号証の一ないし一一、第五七号証の一、二、第五八号証の一、二、第五九号証の一、二、第六〇号証、第六一号証の一ないし三、第六二号証の一ないし三、第六三号証、第六四号証の一ないし四、第六五号証の一ないし五、第六六号証の一ないし五、第六七、第六八号証を提出。

(2)  人証 証人大村嘉平、同杉山英三、同西島六、同伊藤明、同上田泰雄の各証言を援用。

(3)  甲号証の成立に対する認否

甲第一ないし第三号証、第六号証の五、第七号証の五、第八号証の一ないし五の成立は認める。甲第五号証の六、七、第六号証の八、第七号証の七、八の成立は否認。甲第五号証の四の成立については原告を購入先とする記載欄部分は不知、その余は否認。甲第六号証の七の成立については一九三九年式六〇、〇〇〇円の記載部分は認め、その余は不知。甲第六号証の九の成立については富士製紙合板株式会社を購入先とする記載欄部分は認め、原告を購入先とする記載欄部分は不知、その余は否認。甲第七号証の九の成立については原告を購入先とする記載欄部分は不知、その余は否認。その余の甲号各証(枝番とも)は不知。

理由

第一、次の事実はいずれも当事者間に争いがない。

一、原告は、貨物自動車運送業及びこれに附随する一切の事業を行うことを目的とし、昭和二八年一二月一六日資本金三、〇〇〇、〇〇〇円で設立された株式会社である。

二、原告は、昭和二九年度において欠損金が二、二七二、二九六円生じた旨法人税の確定申告をしたところ、被告は、昭和三二年一二月二五日

減価償却の償却超過額 一、三八八、三三六円

仮払金 三〇二、五六一円

混泉徴収加算税 一六、四三九円

未払金過大 一、一九〇、一三二円

以上合計二、八九七、四六八円ありと認定し

これから税金引当金より支出した 六、四八〇円

未納事業税 二、一八〇円

合計 八、六三〇円

を差引いた残額二、八八八、八三八円から原告の法人税確定申告書添付の決算書に原告が損失金として掲示している二、四八九、六九六円を控除した残額三九九、一四二円の所得ありとして所得の更正決定をし、それに基づき法人税を一六七、六二〇円、重加算税を八三、五〇〇円とする賦課決定をした。

三、原告は、昭和三〇年度において欠損金が一、二七六、二〇二円を生じた旨法人税の確定申告をしたところ、被告は、これに対し、

損金に計算した法人税 三二、五〇〇円

損金に計算した県民税および市町村税 三〇〇円

減価償却の償却超過額 六、四〇八、九三〇円

混泉徴収加算税 六、五三八円

地方税加算税 三、四八〇円

未払金過大 三、〇七八、五五五円

売掛金計上もれ 三八三、五七八円

以上合計九、九一三、八八一円を否認して同金額の所得ありと認定し、

これから経費として、

減価償却の償却超過額の当期認容額 三五二、三三六円

未納事業税 三九、九一〇円

償却超過繰入 四〇六、三九三円

未収入金 二七一、〇〇〇円

架空車輛 四四六、八七一円

借入金 一、〇二九、一一八円

未払金残 五一七、八七二円

未払手形 七七五、六〇〇円

合計 三、八四〇、一〇〇円

を控除した残額六、〇七三、七八一円から原告のなした法人税確定申告書添付の決算書に原告が損失金として掲示している六三〇、八五九円を控除し、その残額五、四四二、九二二円の所得ありとして、所得の更正決定をし、それに基づき法人税を二、三一九、四四〇円、過少申告加算税を五六、一〇〇円、重加算税を五九八、五〇〇円とする賦課決定をした。

四、原告は、昭和三一年度において原告の所得が八四九、〇六四円である旨法人税の確定申告をなしたところ、被告は、右年度の所得を一、五五二、八〇〇円とする旨の更正決定と、それに基づいて法人税を五九六、一二〇円、無申告加算税四三、八七〇円とする賦課決定をした。

五、原告は、昭和三三年一月二四日、富士宮税務署長に対し右各年度の更正および賦課決定について再調査請求をしたが、同年三月二〇日請求棄却の決定を受けたので、更に、同月三一日、名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ、同年一〇月一〇日に請求棄却の決定を受けた。

第二、そこで、右各年度における更正、賦課決定が適法であるか否かについて検討する。

一、原告の業態について

(一)  証人大村嘉平、同杉山英三、同上田泰雄、同井出不二男、同藤原豊、同小股正已、同岩崎武久、同松月誠一郎、同井出淳、同白川康雄、同由井健史の各証言を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告はもと商号を岳南運送株式会社と称していた。戦争中井出淳、白川菊蔵、由井定夫らが企業合同して富士貨物自動車株式会社を設立し運送業を営んでいたが、戦後になつて吉原運送株式会社、昭和運送株式会社、富士トラツク株式会社および岳南運送の四社に分離した。岳南運送は井出淳、白川菊蔵、由井定夫の三者が集つて設立したもので、井出が代表取締役、白川が監査役、由井が取締役であつた。その後昭和三一年に白川は白川運輸株式会社、由井は由井運送株式会社を設立し、岳南運送から分離していつた。

(2) 右分離前、原告(岳南運送)は富士市鷹岡町入山瀬四一番地に本社兼車庫があつたほか、入山瀬(駅前)車庫および本町車庫があつた、入山瀬車庫は白川菊蔵の、本町車庫は由井定夫の所有で、それらを原告が車庫として借りていたものである。入山瀬、本町の各車庫は単なる車庫ではなく、実質的には原告の営業所としての営業活動をしていた。すなわち入山瀬車庫は白川菊蔵が、本町車庫は由井定夫がその管理、運営にあたり、車庫の営業内容は日報によつて本社に報告し、各車庫の経費は本社か概算払いで送られ月末に清算する。運送賃は各車庫で集金して本社に送ることになつていた。本社ではそれら日報や送金にもとづいて経理、記帳し、かつ決算をしていた。

(3) 入山瀬車庫には、原告所有の車輛数台と訴外新東産業株式会社(以下新東産業という)名義の車輛一台、訴外富士製紙合板株式会社(以下富士製紙という)名義の車輛一台があり、その全車輛をもつて新東産業や富士製紙等の製品等の運送にあたつていた。しかも、それによる運送代金も、どの部分がどの車輛によるものであるとはつきり区別されず、全て一括して処理されていた。

(4) 本町車庫にも、原告所有の車輛数台と、訴外富士共和製紙株式会社(以下富士共和という)名義の車輛一台、訴外富士里和製紙株式会社(以下富士里和という)名義の車輛一台があり、その全車輛をもつて、富士共和や富士里和等の製品等の運送にあたつていた。しかも、それによる運送代金についても、これまた、どの部分がどの車輛によるものであると明確に区別されず、全て一括して処理されていた。

(5) 右(3)、(4)の場合原告所有名義でない車輛による運送賃についても、原告名義の請求書領収書が使用されていた。

(二)  もつとも、証人井出淳は新東産業名義の車輛、富士製紙名義の車輛、富士里和名義の車輛、富士共和名義の車輛による運賃収入は、他の原告所有の車輛による運賃収入とは区別することができる旨供述するが、右供述にそう証拠は他になくこの点に関する同人の供述は信用し難い。右井出証言および証人佐野輝雄の証言中、前認定に反する部分は前掲証拠と対比し信用しがたく他に右認定を覆すに足りる証拠もない。

二、昭和二九年度更正、賦課決定について

(一)  減価償却超過額

(1) 資本的支出による減価償却超過額が四〇六、三四七円あつたことは当事者間に争いがない。

(2)イ 新東産業名義の車輛について

成立について当事者間に争いのない甲第八号証の三、証人大村嘉平の証言および弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第二八号証、第三二号証の一ないし三、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第五四号証の一、および証人大村嘉平、同井出淳、同白川康雄、同岩崎武久、の各証言を総合すると、昭和二九年九月二一日、白川菊蔵は訴外静甲いすゞ自動車株式会社(以下静甲いすゞという)より、いすゞTX六一―二一一八〇七の車輛(以下甲車という)を代金一、五三九、一〇〇円で買つたが、営業免許の関係上甲車をすぐに自己、または原告名義にしてその営業に使用することができなかつたので、名義上は一応新東産業の自家用車として自動車登録し、実際は自己および原告の営業に使用していたこと、そして、その売買代金の殆んどは、新東産業が原告に対する運賃の支払にあてるために振出した約束手形によつて支払われていたこと、以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。してみると、前記第二の一において認定したように、新東産業の製品等の運送には原告所有の車輛および甲車等が不可分一体となつてあたつていたのであり、その運賃収入も一括して経理されていたのであるから、甲車の車輛代金として静甲いすゞに支払われた新東産業の運賃は、原告に対して支払われた運賃であると認めざるをえない。従つて、甲車の所有に関して井出淳や白川菊蔵らが主観的にどのように考えていようと、実質的にみるならその車輛代金は原告の所得から支払われていると判断され、それを覆すに足りる証拠はない。

ロ 富士共和名義の車輛について

証人大村嘉平の証言および弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三一号証、弁論の全趣旨により成立の認められる乙第二一号証、第五二号証の五および証人大村嘉平、同井出淳、同由井健史、同井出不二男の各証言を総合すると、昭和二九年七月二八日、由井定夫は訴外静岡日野ヂーゼル株式会社(以下日野ヂーゼルという)より、日野TH一一―七一七九一(以下乙車という)を代金二、一〇七、一九六円で買い、これまた営業免許の都合上名義は富士共和名義に登録し、実際は自己および原告の営業に使用していたこと、そして、その売買代金は富士共和が振出した一三通の約束手形によつて決済されていること、さらに、その約束手形は、本町車庫にあつた全車輛で由井定夫が富士共和の製品等を運送したその運送代金の支払にあてるため富士共和が振出し、かつ由井定夫名義の当座預金(右運賃等の入金)から決済されていること以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、この運賃に関しても前記第二の一において認定した事情からして、全て原告の運賃収入であると認めざるをえないので、乙車の車輛代金は原告の所得から支払われていると判断される。

ハ 右イ、ロで認定した事実によれば、原告がその運賃収入もれより取得した車輛が二台あり、その代金は計三、六四六、二九六円となることが明白である。そしてそれに対する法定の減価償却認容額は九一四、四五七円である。従つて、この車輛に関する減価償却超過額が二、七三一、八三九円となる。

(3) 以上認定した事実によれば、減価償却超過額として計三、一三八、一八六円が存在することは明らかである。

(二)  仮払金三一二、五五〇円の計上もれがあることについては、いずれも当事者間に争いがない。

(三)  未収入金計上もれについて

イ 成立について当事者間に争いのない乙第一号証、第七号証、第九号証の二、第一二号証の二および証人大村嘉平の証言を総合すれば、未収入金計上もれとして富士里和の分一七三、二〇一円、富士共和の分二九八、五一一円、訴外丸金製紙株式会社(以下丸金製紙という)の分一一六、五七五円計五八八、二八七円あることが認められる。

ロ これに対して、原告は、右の未収入金は原告のものではなく、白川菊蔵もしくは由井定夫のものである旨主張し、証人藤原豊、同井出淳、同佐野輝雄はそれにそう供述をしている。しかし、前記第二の一において認定した事情からして右供述だけでは右イの認定を覆すに足りず、他に右認定に反する証拠もない。

(四)  預金計上もれについて

イ 成立について当事者間に争いのない乙第六号証の一、第九号証の一、二、証人大村嘉平の証言および弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一七号証の二、五、第二一号証、第四八号証の七、第五〇号証の二、四および証人大村嘉平の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、富士共和、富士里和、富士製紙等の原告に対する運送代金が、白川菊蔵や由井定夫名義の普通預金、当座預金に預け入れられていること、右各預金を原告は確定申告書添付の決算書には計上していないこと、その計上もれ金額は計九九三、六六八円であること以上の事実が認められる。

ロ これに対しても、原告は、右預金は各々その名義人のもので原告のものではない旨主張し、証人井出淳、同藤原豊、同佐野輝雄はそれにそう供述している、しかし、これに関しても富士共和等の運送代金が、前記第二の一において認定した事情等からして原告の運賃収入と認められるので、右各供述だけでは右イの認定を覆すに足りず、他に右認定に反する証拠もない。

(五)  受取手形計上もれについて

成立について当事者間に争いのない乙第六号証の一および証人大村嘉平の証言を総合すると、富士製紙が昭和三〇年三月三一日振出した約束手形に関し、五一八、六二一円の計上もれがあることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

以上(一)ないし(五)の合計五、五五一、三一二円

(六)  右の金額より差し引かれるべきもの

(1) 未納事業税が二、一八〇円あることは当事者間に争いがない。

(2) 買掛金計上もれ弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第三二号証の一ないし三、第五五号証の一ないし八、第五七号証の一、前出乙第五二号証の五、第五四号証の一によれば、前記甲、乙両車の車輛代金三、六四六、二九六円のうち一、七〇六、七四六円(被告は一、一三一、一〇六円と主張するが証拠上上記の金額が正当と認められる。)は、昭和二九年度未払金であると認められる。

(3) 借入金計上もれ

被告が主張する富士信用金庫よりの借入金四〇〇、〇〇〇円についてはこれを認めるべき証拠がない。

(4) 原告が二九年度損失金として二、四八九、六九六円を計上していることは当事者間に争いがない。

以上(1)ないし(4)合計四、一九八、六二二円

(七)  前記五、五五一、三一二円より右四、一九八、六二二円を差し引くと一、三五二、六九〇円となり、これが昭和二九年度における原告の所得と認められる。従つて、右の範囲内でなされた被告の昭和二九年度更正決定およびそれに基づきなされた法人税の賦課決定は適法である。

(八)  重加算税賦課決定の適法性

前出の各証拠および前記認定の各事実によると、原告の取締役や監査役である由井定夫、白川菊蔵が右の各所得を故意に本社に報告せず、所得を隠ぺいしたことが推認され、これに反する証拠もない。ところで問題は、原告代表者が右隠ぺいの事実を知らない場合にも、重加算税の規定の適用があるかどうかである。

この点に関しては重加算税の制度の趣旨が隠ぺい、又は、仮装したところに基づく過少申告、もしくは、無申告による納税義務違反の発生を防止し、それにより申告納税制度の信用を維持するところにあるところからして、仮装もしくは隠ぺいの行為を納税者個人の行為に限定すべきではなく、その従業員や家族等が右の行為をした場合にも納税義務者がそれを知つているかどうかにかかわりなく重加算税が賦課せられるものと解するのが相当である。従つて、本件においても原告代表者であつた井出淳の知、不知に関係なく重加算税は賦課されることになり、被告がなした二九年度重加算税の賦課決定は適法である。

三、昭和三〇年度更正、賦課決定について

(一)  減価償却超過額

(1) 富士製紙名義の車輛について

成立について当事者間に争いのない甲第八号証の二、乙第六号証の三、前出乙第二八号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第五四号証の二、第五六号証の一ないし一一、第五七号証の二および証人大村嘉平、同井出淳、同白川康雄、同小股正已の各証言を総合すると、昭和三〇年八月一一日頃、訴外株式会社白川組(以下白川組という)は、静甲いすゞよりいすゞTX―六一―二一五七〇六の車輛(以下丙車という)を代金一、五一七、六八〇円で買つたが、営業名許の関係上丙車を名義上は富士製紙の名義に登録し、実際は白川菊蔵個人および原告の営業に使用していたこと、白川組は富士製紙等でその荷物の積み込み等の仕事をしていた会社で白川菊蔵がその代表取締役であつたこと、丙車の車輛代金の大部分は富士製紙が振出した一一通の約束手形によつて決済されていること、その約束手形は本町車庫にあつた車輛により白川菊蔵が富士製紙の製品等を運送したその代金の支払にあてるため富士製紙が振出したものであること以上の事実が認められ右認定に反する証拠はない。

してみると、この運送代金に関しても前記第二の一において認定した事情からして、全て原告に帰属すべき運送代金であると認めざるをえない。従つて丙車の車輛代金は原告の所得によつて支払われていると判断される。

(2) いすゞTX六一―二一六九七二の車輛(以下丁車という)について

被告は、丁車についてこの車輛は原告がその簿外の預金等によつて取得したものであり、しかも、その車輛代金について決算書の車輛勘定には計上していない旨主張する。それにそう証拠として乙第一七号証の五、第二八号証、第六三号証、証人杉山英三、同大村嘉平の証言がある。しかし証人藤原豊の証言によつて成立の認められる甲第五号証の一ないし一一によると、丁車は由井定夫が原告会社から独立して由井運送株式会社を設立した際、原告より由井運送には譲渡されていないことが認められ、また、証人上田泰雄の証言および同証言によつて成立の認められる乙第三号証によれば、原告はその確定申告にあたつて昭和三〇年度の車輛台数を一八台と申告していることが認められ、さらに、乙第二八号証によれば原告は自己名義で丁車を買い受けていることが認められ、右各認定に反する証拠はない。

してみると、甲、乙、丙車等とは異り、丁車については原告がことさらそれを決算の際に計上しないこととしなければならない事情もなく、しかも、別表(二)と前記認定の原告が一八台と申告した事実とを対比すると原告が丁車を決算の際に車輛勘定に計上したであろうことも窺われるから、被告援用の前記各証拠だけではいまだ被告の右主張を証明するには不十分であるといわざるをえない。

(3) 以上(1)、(2)の事実によれば丙車に関する減価償却超過額が一、一四四、三三二円あることが認められる(丙車の法定の減価償却額三七三、三四八円を丙車の代金額から差引いた残)

(二)  仮払金の計上もれが四二、八一八円あることは当事者間に争いがない。

(三)  未収入金計上もれ

成立について当事者間に争いのない乙第二号証、第七号証、第一一号証、第一二号証の二および証人大村嘉平の証言を総合すると未収入金計上もれとして

富士里和の分 五五、〇八〇円

三弘紙業株式会社の分 一六九、二三七円

丸金製紙株式会社の分 一一九、〇八三円

計 三四三、四〇〇円

あることが認められる。

(四)  預金計上もれ

イ 前記第二の二、(四)イに掲げた各証拠と証人大村嘉平の証言および弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第一八号証の一、二、第一九号証、第二〇号証および弁論の全趣旨を総合すると結局原告が決算書には計上していない預金が計八九九、六二九円存在することが認められる。

ロ これに対しても、原告は、右預金は各々その名義人のもので原告のものではない旨主張するが、その主張の失当なことは、前記第二の二、(四)ロに判示したと同じである。

(五)  受取手形計上もれ

イ 前出乙第二号証、第六号証の三、成立について当事者間に争いのない乙第四号証、乙第一三号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第二四号証および証人大村嘉平の証言を総合すると、次の各手形金のうち計一、三〇五、六九二円が計上もれになつている事実が認められる。

〈省略〉

計 一、九九八、五一九円

(六)  減価償却不当金が一四八、四七八円あることは当事者間に争いがない。

(七)  買掛金過大計上

前出乙第二号証、第二八号証、証人大村嘉平の証言および弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第二五ないし第二七号証、第二九号証および証人大村嘉平の証言を総合すると、訴外三菱ふそう株式会社等に対する買掛金として計上されているうちで過大なものが計六、九九四、五〇八円あることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(八)  前期減算した買掛金繰入れ額

昭和二九年度所得のうち前記二(六)(2)により減算した買掛金計上もれ一、七〇六、七四六円は、前記二(六)(2)に掲げた証拠により当期において支払済であると認められる。従つて、この金額も所得に加算される。

以上(一)ないし(八)の合計一二、五八五、六〇二円

(九)  右の金額より差し引かれるべきもの

(1) 減価償却超過額の当期認容額

イ 昭和二九年度で加算した減価償却超過額のうち原告が当期雑収入に計上繰入れた額四〇六、三四七円が減価償却として認容さるべきものであることは当事者間に争いがない。

ロ 昭和二九年度において加算した減価償却超過額三、一三八、一八六円のうち二、七三一、八三九円に対応する当期減価償却認容額が一、〇〇八、〇四八円になる(〈省略〉)ことは、前記第二の二(一)(2)に認定した事実により明らかである。

(2) 未納事業税が三九、九一〇円あることは当事者間に争いがない。

(3) 借入金計上もれが被告主張のように四五〇、〇〇〇円あるとの事実を認めるべき証拠はない。

(4) 買掛金計上もれ

前出乙第二八号証、第五四号証の二、第五六号証の一ないし一一、第五七号証の二を総合すると、丁車の車輛代金のうち五一七、八七二円は当期の未払金であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(5) 貨物自動車架空計上金が四四六、八七一円あることは当事者間に争いがない。

(6) 昭和二九年度において未収入金計上もれとして加算した五八八、二八七円、受取手形計上もれとして加算した五一八、六二一円が当期繰入れにより減算さるべきものであることは、前記第二の二、(三)イ(五)に掲げた各証拠により明らかである。

(7) 原告が三〇年度損失金として六三〇、八五九円を計上していることは当事者間に争いがない。

以上(1)ないし(7)合計四、一五六、八一五円

(一)  前記一二、五八五、六〇二円より右四、一五六、八一五円を差し引くと八、四二八、七三七円となり、これが昭和三〇年度における原告の所得と認められる。従つて、右の範囲内でなされた被告の昭和三〇年度更正決定およびそれに基づきなされた法人税賦課決定はいずれも適法である。

(二)  重加算税および過少申告加算税の適法性

(1) 過少申告加算税

前記認定のように、原告が昭和三〇年度所得を実際より少く確定申告したことは明らかである。

そして、原告には右のように過少に申告するにつき正当な理由があると認めるべき何らの証拠もない。

してみると、被告が前記更正決定に基づき被告主張の過少申告加算税を賦課したのは適法な処分であるというべきである。

(2) 重加算税

昭和三〇年度分所得についても、由井定夫および白川菊蔵が原告の所得を隠ぺいしたことは明らかである。従つて、前記第二の二、(ハ)において述べたと同様の理由により、被告の本件重加算税賦課決定は適法なものであるといわざるをえない。

四、昭和三一年度更正、賦課決定について

(一)  証人西島 六の証言によつて成立の認められる乙第三八号証の一ないし四、第三九号証の一ないし四、第四〇号証の一ないし四、第四四ないし第四六号証、成立について当事者間に争いのない乙第三七号証、第六五号証の三、第六六号証の三、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第四一号証の一ないし三、第四二号証の一、二、第四三号証の一、二および証人杉山英三、同西島 六、同上田泰雄の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(1) 原告会社は、昭和三二年四月一日に火災のため決算書作成にあたりその基礎となるべき帳簿書類を焼失してしまつた。そこで、原告は、昭和三二年四月および五月分の収入、支出を基礎とし、これを年換算したものによつて昭和三一年度における決算書を作成した。しかし、昭和三一年一〇月に、由井定夫および白川菊蔵は、原告会社より独立しそれぞれ由井運送株式会社、白川運輸株式会社を設立し、その際、原告所有車輛の一部を譲り受けていつたため、昭和三一年度における原告の営業規模と、昭和三二年四、五月頃のそれとはかなりの差異があつたこと。

(2) そこで、被告は、原告会社とその所在地が近くで、かつ、その営業の規模が原告と同規模で原告と同業種の法人である

吉原運送株式会社(以下吉原運送という)

富士トラツク株式会社(以下富士トラツクという)

朝日運送株式会社(以下朝日運送という)

の三会社を基準法人として原告の所得を推計したこと。

(3) 右三会社の昭和三一年度における営業利益率等は次のとおりであること。

イ 営業利益率

吉原運送 三一・二%

富士トラツク 一六・六%

朝日運送 二三・七%

三社平均 二三・八三%

ロ 所有車輛台数

吉原運送 一二・三台

富士トラツク 一六台

朝日運送 一九・二台

ハ 一車輛あたり運送収入

三社平均 二、五五七、四九六円

ニ 車輛一台当りの平均積載量

別表(四)ないし(六)の通り

ホ 一九五三型車輛より古い型の車輛が全車輛に対して占める割合

三社平均 四五%

ヘ 右のイ、ハの数字を基に、かつ、原告所有の車輛台数を一六台として原告の所得を計算すると、

2,557,496×16×0.2383=9,751,220

となり、これから営業外損失金計四、二一二、二三二円(この金額については原告が明らかに争つていないから自白したものとみなす)を差し引いた五、五三八、九八八円が原告の所得として算定されること。

(二)  右認定の事実に対して原告は、原告所有の車輛は右三社の車輛にくらべて一台当り平均積載量が少ないとか、原告の車輛には中古車が多く右イに認定された営業利益率にはとうてい及ばないとか、右三社の所在地は富士市であるのに対し、原告の所在地は鷹岡町という小さな町であるとか等を理由に右推計は不合理なものである旨主張し、証人井出淳、同佐野輝雄はそれにそう供述をしている。しかし、右(一)に掲げた各証拠に照らすと右供述はたやすく信用できないし、かえつて別表(一)ないし(三)の車輛と比較すれば、右三社の車輛の方が平均積載量においては劣つていることさえも窺える。

してみると、右三社を基準法人として原告の所得を推計したこと自体に関しては、何らの違法もないといわざるを得ない。

(三)  次に昭和三一年度における原告所有車輛の台数について

被告は、この点に関し原告は平均一六台の車輛を有していたと主張し、原告は、各年度の車輛数を別表(一)ないし(三)のとおりである旨主張する。しかし、かりに、原告主張の台数を基礎にして右(一)に認定した事実に基づいて当期の所得を計算してみても、その額が当期所得について被告のなした更正決定の所得額を越えることは明らかである。従つて、当期所得の更正決定は、いずれにしても原告の所得の範囲内でなされたものと認められ、適法な処分であるといえる。

(四)  無申告加算税について

成立について当事者間に争いのない甲第六七号証、第六八号証によれば、原告は、昭和三一年度分所得の確定申告書の提出期限を一旦昭和三二年一一月二〇日まで延期してもらつたが、結局右期限にも確定申告書を提出することができず、申告書を提出したのは同年一二月一七日になつてしまつたとの事実が認められ、右認定に反する証拠もない。

そして右のように申告書を提出するのが期限に遅れたことに関して、正当な理由があると認めるべき何らの証拠もない。してみると、被告が、前記更正決定の金額に基づき無申告加算税を原告に対して賦課した処分は適法なものというべきである。

第三、結語

以上認定した事実によれば、被告が原告に対してなしたところの本件更正、賦課決定は全て適法なものであり、従つて、原告の本訴請求は全て理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水上東作 裁判官 山田真也 裁判官 三上英昭)

別表 (一) 昭和二九年四月一日~昭和三〇年三月三一日

〈省略〉

(二) 昭和三〇年四月一日~昭和三一年三月三一日

〈省略〉

(三) 昭和三一年四月一日~昭和三二年三月三一日

〈省略〉

(四) 吉原運送株式会社昭和三一年四月~昭和三二年三月一台当りの積載量

〈省略〉

(五) 富士トラツク株式会社昭和三一年四月~昭和三二年三月一台当り積載量

〈省略〉

(六) 朝日運輸株式会社昭和三一年一〇月~昭和三二年九月一台当り積載量

〈省略〉

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